壊して


  散って


   また集めて


    作り直された自分という存在


こうして再び、この世に生を受けた意味は、一体。
この身に焼きついた記憶、過去、思い。
わからないんだ、実際。
俺が何者なのか、どうして此処に在るのか。

でも、でもな。
交じり合った混沌の中から、ひとつだけ、見つけたんだよ、俺は。


ガイ…
俺は、お前で構築されたい






Re-construction【再構築】



こうちく【構築】
構えきずくこと。建築または土木工事を行うこと。…広辞苑より









久しぶりに帰ってきた、自分の家。
この小さい自分の部屋も、いなくなる前と同じで、ご丁寧に俺の日記は机の引き出しにしまわれていた。誰が…と思って、ガイ以外にはいないだろう、と思い直した。そういう変に几帳面なことをするのはガイに決まってる。

再会を果たした皆と別れ、とりあえず自宅に戻ることになった俺はひとりこの部屋にいる。
一日経って、また夜が来た。タタル渓谷の夜は冷たく寒かったけれど、この部屋にひとりも寒かった。ひとりでいる、ということが問題なのかもしれない。タタル渓谷も、みんなで語り合った時間は寒いとか、夜がもうすぐ明けそうだとか、そういうことはあんまり考えなかった…ような気もする。

再度この世に生を受けてから、ルークはずっと『無』だった。
ルーク・フォン・ファブレという名前、家族のこと、仲間のこと、オリジナルそしてレプリカのこと、エルドラントで起こったこと…。そういうことは勿論覚えていたが、それはただそこにある記憶という『もの』でしかなかった。
だからあの時、タタル渓谷で自分は初めて生まれたんだと思う。
そして同時に感情も、芽生えた。

自分はルークでいいんだという安堵と、それとは矛盾する不安。


軟禁されていたときのように、この部屋に一人、夜を迎える。

「まだおきているのか、ルーク」
入るぞ、と声がかけられ、キィ、と音を立ててドアが開く。
昔はこんなふうに音なんて立たなかったのにと思う。たぶん、自分がいない時は滅多に出入りされなかったのであろう。旅をしていた間もほとんどこの部屋で寝泊りなどしなかったから、実質3年間、この部屋のドアは静かに帰り人を待っていたんだろう。
「このドア、前までこんな音したか」
不思議そうに、ガイがドアを閉めながら蝶番のほうに目をやる。
「少なくとも、俺が小さい頃はこんな音しなかったと思うけど」
「そうだったか?」
「だって、夜ナタリアに会いに抜け出す時、ドアがこんな音立てたら一発でバレるだろ」
それはただの、懐かしい昔話だったはずだった。でもガイの表情から、それは今の俺にとってとても重要なことなのだと知る。

「小さい頃ってそれ…お前…知らないはずじゃないのか」
「え…あ、あれ…?」
「ルーク…」

「お前は、一体、何者なんだろうな」

それは誰もが問いたくて問えなかった疑問だった。
そんなガイがガイらしいと思うのは、ルークとしての俺か、アッシュとしての俺なのだろうか。どっちにしたって、ガイはガイだ。それは変わらない事実なんだから、それでいいじゃないか。そう心で思うけれど、でも矢張りどこかでひっかかるのは確かだった。
「さあ、誰なんだろうな…」
「ルーク…」
溢れ出てくる記憶と、感情。
「俺だって、わからねぇよ。なんかこう、頭の中がぐちゃぐちゃなんだ。姿かたちは、なんとなくルークっぽい…か?いや、でも髪はオリジナルっぽいような気もするし…利き手も右手だし、髪は長くなってるし」
「落ち着け、ルーク」
息弾ませて捲くし立てるルークに、ガイは慌てて声をかける。責めているわけじゃない。ただ、問いたかっただけなんだ、と。
わかってる、わかってるんだ…けど…。
「感じとしては、アッシュの中から世界を見たときに似てる」
「なんだそりゃ」
「そういう時があったんだよ」
「へぇ…」
ガイはなんでもなさそうに笑っていたが、少し困ったような、そんな様子が窺えた。
「どっちにしろ、明日ジェイドが調べてくれればわかるんだろ。その…」
「レプリカかどうかってこと、だろ」
「ああ…まぁ…」
自分からこの話題を振ったくせに、いざ核心に迫れば少し視線をずらし言いよどむガイに、何故かカッとなった。
よくわからない。けれども、曖昧に濁されるのは嫌だった。
「ガイはどっちがいいんだよ」
「何が」
「オリジナルがいいのか、レプリカがいいのか」
「どっちにしたって、ルークはルークだろ」
「俺がアッシュだったらどうなんだよ、また…冷たくあしらうのか」
今怒ってるのは紛れもなくアッシュの記憶だと思った。
ぼんやりと記憶の奥底から、小さな頃のガイの姿が目に浮かぶ。こんな小さな頃のガイなんか知らない…いや、でも知ってる。やっぱり、俺はルークであり、アッシュなんだろう。
「ガイに見放されるなんて…嫌なんだよ…ルークとしての俺も、アッシュとしての俺も。どっちもつらい」

ベッドの上で項垂れていると、トスッと絨毯を踏みしめる足音がするかと思うと、今度は揺れる自分の髪の隙間からガイの姿が現れる。
あろうことか、跪いて此方を見上げていた。もう使用人じゃないのに、どうしてかそういう格好が似合うんだよなぁ…って、今はそういう問題ではない。
「何やってんだよガイ…」
びっくりして、少しつっけんどんな言い方になる。
「ひどいな、誠心誠意告白しようとしてるのに」
ガイも、ルークの言葉が本心でないことを悟っているのだろう。恨み言を言うガイの口調も、どこか愉しげだった。でも、ふざけた雰囲気もそこまでだった。

揺らめく赤毛をひと房掴んで、口元に引き寄せる。
「どうしてそういう恥ずかしいことをす…」
「ルーク、お帰り。それから、アッシュ…お帰り。今まで冷たくして、ごめんな」
ツキンと、頭の奥で痺れるように何かが騒いだ。

そうか。

俺は、ガイに認められたかっただけなんだ。
今の俺を。昔の「ルーク」とか「アッシュ」とかそういう括りじゃなくて、今ここにいる俺という存在を認めてほしかったんだ。


「ガイ…俺は、こんなにもらってばかりでいいのかな。求めてばかりでいいのかな」
「いいんじゃねぇの?」
「簡単に言うなよな」
「だってお前、今も昔も…ルークもアッシュも、好きだろ、俺のこと」
「なんだよそれ、自分でそういうことを言うなよ…まあ…そうだけど…さ…」
「だから、もらってるんだよ、俺も」
「何を」
「…愛、とか?」
「とかってなんだよ」
「恥ずかしいこと言ってるなっていう自覚はあるんだっての、揚げ足取るなよ」
「じゃあ…そういうこと、言わなきゃいいじゃん」
「言わなきゃわからないことだって…あるだろ」
「愛とか?」
「そう、愛とか、さ…」
互いの頬を撫ぜるように、二人で笑いあう。
いつの間にかルークは片膝を付いていたガイの身体を引き寄せていた。ガイも、腕を自然の背中へと回してくれる。
こうして抱き合うのは、ルークにとって不思議な感覚だった。実際の時間では一年ぶり。でも、その一年の時間の記憶がない自分にとって、前に触れたのはごく最近のように思いもする。しかし、それでもギュッと捕まれるような、まるで初めて触れたかのような気持ちがするのは、きっと、アッシュの記憶なんだと思う。

「アッシュが、喜んでる」

そう耳元で囁くと、少し、ガイの抱き締める力が強くなった。
「アッシュは、素直に嬉しいなんて言わないだろ」
「そうかもな…だから、いいんだよこれで。あいつはどうせ、口を開けば逆のことばかり言って、嬉しいなんて絶対言わないだろうし…こうやって、俺が感じてることをガイに伝えられれば、アッシュも、俺も、きっと嬉しい。だから…」
「ん…?」
「もっと、触らせろよ、ガイ。俺は、ガイに触りたい。俺はガイを求めていいんだってこと、確かめたい」

返事はなかった。
背中に回された指が少し、戦慄いているのを感じ、首筋に触れるだけのキスを落とす。
コクッと音が鳴って、ガイの喉が僅かに隆起する。その直後、ハァ、と小さな声が漏れるのをルークは確かに聞いた。
その仕草を、肯定の返事と受け取り、僅かに開いた唇に舌を忍ばせる。

さっきまで好きだの愛だの言っていたくせに。
肝心なことは言ってくれない。
そんなガイが愛しい。

そして、早く欲しいと思った。





一年ぶりにつなげる身体は、幾分成長しているような気もした。
もしかしたらそれは、ルークがアッシュと融合したからかもしれない。
時にはルークに見え。
時にはアッシュにも見える。
その感覚はきっと、間違っていないのだろう。

二人分の愛情を、ガイは苦しいくらいに感じていた。
これ以上はないだろうと思うのに、もっと、もっと深く、と侵入してくる。
自分のものとは違う鼓動が、内腔を伝わって流れ込む。
それは俺のものだ、と刻み込まれていくようで、性感と交じり合い神経が焼ききれるそうな底知れぬ感情の高ぶりを自分の中に感じて、ガイは怖くなった。
「ア、クッ…ん……」
「ガイ……俺……俺……ッ」

二つの記憶、感情を内に秘めたルークは、自分の欲望を止められない風だった。
ルークとしての、恋人を求めたい素直な欲望。
アッシュとしての、今まで手に入れられなかったものをやっと手に入れた喜び。
ルークとしての、アッシュには触らせたくないという嫉妬。
アッシュとしての、レプリカに全てを奪われてきたオリジナルの劣情。
全てが混ざり合って、こうしてガイに注ぎ込まれている。
それは恐怖であり、同時に、深い快感だった。

全てを受け止めたかった。

自分が何をしでかすかわからないと、戸惑うのは当然なことだが、ルークは自分をなんとか制御しようと必死だった。
「ルーク…いいから…」
「だって、俺きっとわけわかんなくなる…ガイを傷つけたくないッ…」
「いいから…俺もそれを望んでいるんだ、ルーク…アッシュ…二人とも、受け止めたいんだ」
「ガイ…ごめん…」
「わかってるから…もう謝るな」
「…ありがとう……でも、やっぱりごめん」
「ルー…ンッ…ッ……ッア!!」

容赦なく、楔を穿たれ、言葉などもう紡ぐことは出来なかった。
少しでも罪悪感を感じさせないようにと声を抑えようとするのだけれども、一度繋がってしまった快楽への回路は到底抑えることは出来なくて、注挿の度に身体を戦慄せ、甘い声を漏らし続ける。それはだんだん、悲鳴のような声へと変化し、やがて少し嗄れていった。
ルークの背中に捕まっていないと、意識が持っていかれそうで必死にしがみつく。しかし、そうすれば結合は更に深くなり、最奥を突かれる度に頭の中は少しずつ真っ白になっていった。

身体も、心も、ルークで埋め尽くされていく。

苦しくて。
息が出来ないくらい苦しくて。
果てる時、声など出なかった。
ただただ、目の前にいる泣きそうな顔の青年を見て思った。

愛してる
愛してる
愛してる

どんなに、自分はつらい思いをしてもいいから
この手を離さないで
そばにいて

強く 強く 抱き締めていてほしい

お帰り、俺の…。。。







POC/とや子様に捧ぐ




以下、私信というかあとがき↓











とややへ私信。
鬼畜じゃなくてごめんね。
でも最後鬼畜っぽかったでしょ。
え、そんなことない?
激しいのはお好きかと思いまして、ええ。
でもあれだね、あんまりエロくならなかった。
甘い砂吐きって苦手なんだ。ごめんよ。
(だからリクは鬼畜だってば…)
少しでも気に入っていただけたら幸いです。

あとがき。
はじめて書いたアビス小説です。
アッシュでもピオジェでもなくてルクガイっていう…。
おかしいな、どうしてこんなことになっちゃったんだろう…。
本当はED後が3年後で、ガイは他の人と結ばれてて幸せになっちゃってた→鬼畜
っていう話を思い描いていたのですが、なんか1年後らしいので、急遽このような小説になりました。
EDの赤毛はルークとアッシュの融合体という設定です。
でも性格はルーク。
二重人格ではないです。
なんかややこしいな。
まあ、あんまり深く考えないでください。

2006.10.15 疾風

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