「毎日暇だなぁ…なー、ジェイド?」

この人を見ていると、なんだか心が落ち着かない。

「お前は本当に可愛いなー、よしよし、なんだ?ごはんか?」

大人っていうのは、もっとこう、しっかりしてて、

「違うか…おっ、遊びたいのか?そうかそうかー」

ましてや陛下とあらば、堅い考えとか持ってて、

「散歩行くか?じゃあ、ガイラルディアも一緒だな!」

仕事に追われて忙しいんじゃないかと思っていた。

グランコクマに来て数週間経つ。
この人が、真剣に何かに取り組んでいる姿を見たことは、たぶん、ない。


ンリー ンリー ローリー


「…陛下」
「ん?なんだ、ガイラルディア」
声も心なしか(というよりもだいぶ)上ずっていて、上機嫌なのだと知れる。
昨日までジェイドに「片付けてください」だの、「この書類が私の部屋にあったのですが」だの、本当に子供を叱るかのような小言を散々言われ続け、ようやくそれから開放されたからだろう。
昨日まで、というのにはわけがあって、ジェイドは今日から仕事でグランコクマを不在にしていた。
つまり、ジェイドは自分がいなくなる前にどうにかしておきたかったに違いない。
なぜなら、ガイがピオニーには何も言えないのを、それとなく知っているだろうから。
前までは酷い有様だったピオニーの部屋はきちんと片付けられていて、陛下の愛するブウサギとの戯れスペースが確保されていた。

まあ最終的には、ほとんどジェイドとガイの働きのおかげなのだが。


そんなわけで、ピオニーはジェイドのうるさい小言のおかげで当分仕事をしなくていい(かどうかは実際のところ、ガイにはわからないが)時間を獲得したわけである。
上機嫌じゃないはずが、ない。
だからといって、今できることとできないことがある。
「今は夜ですから、散歩は無理です」
「なんでだ」
「ブウサギは夜目が利かないですから」
「でも可愛い方のジェイドは散歩したいといっているぞ?」
子供みたいな顔して、実に、嬉しそうに言うものだから。この人は果たして本当の陛下ではないんじゃないだろうか、実際見た目どおりもっと若いんじゃないだろうか、などと疑ってしまう。

「散歩は、明日しましょう」
なるべく、やんわりと断ったつもりだったのだが、むくれた顔をして黙ってしまう。
これでは、どっちが大人なのかわからない。
それともやはり、これは演技なのかなとも思うのだが本気で気分を害しているようにも思えて、結局は「すみません」と謝ってしまうのだった。

散歩は行けないということがわかったのか、可愛い方のジェイドはピオニーとガイに一度擦り寄ると、他のブウサギのいるところへ戻っていく。
「また、暇になってしまったなぁ」
ぽつりと、ピオニーは言葉を零す。まるで、おもちゃを取り上げられた子供のような顔だった。
なんと声をかけたらいいのか、よくわからない。
時間は、もうすぐ新しい日になろうとしていた。
「もうそろそろ、寝たらいいんじゃないですか。時間も、時間ですし」
「そう、だな…うん」
さっきまでのテンションはどこへやら、気落ちしてるのかそれとも我に返ったのか、静かな声音で呟いた。
「では、これで私は…失礼しま」
「ちょっと待て」
ドアに向かおうとしたその時、すかさず声を掛けられる。
「はい?」
「一緒に寝よう」
「はい………はぁ!?」

この人は、なんて言った。
一緒に寝よう。

 一緒 に 寝よう ?

この世の中に、そんなお休みの挨拶があっただろうか。
いや、たぶん何処を探してもないだろう。

「今日はジェイドがいないから、ガイラルディア、一緒に寝よう」
「いつもはジェイドと寝てるんですか」
「いつもじゃない、たまにだ」
たまにでも、問題だと思うのだが…。

この問題発言をどう取ったらよいのかわからず、そして返事もこの場合イエスでよいのかどうかもわからず、ガイは立ち止まったまま困惑していた。

「俺と一緒に寝るのが、嫌なのか?」
「嫌とかそういう問題じゃないと思うのですが…」
「じゃあ寝よう」
「いや、だから…」
「独りは淋しい」
この大人は、こんな大きな身体をしてどうしてそんなことを言い出すのだろうか。

「こんな城、俺には大きすぎる。夜になると思わないか。自分は、独りなんじゃないかって」

グランコクマに来てから、一日がやたらと長く感じられるのは事実だった。
考えなくてもいいことを延々と考えてしまって、結局眠れない夜もあった。
そして、目の前のピオニーのことを考えた。
この人は、きっと、毎日そんな気持ちでずっと生きてきたのではないだろうか。

「孤独じゃないように、ブウサギを飼った。でもやつらは、夜には寝てしまうんだよなぁ」

そんな当たり前なことを真剣に話す。たぶん、真剣に真剣に考えて、ブウサギを飼ったんだろう。近しい人の名前を付けるのは、もしかしたら本当は誰かそばにいて欲しかったからかもしれない。

「陛下は、俺なんかで、いいんですか」
「ガイラルディアで、駄目なわけがないだろう?…こんなに可愛くて、俺の馬鹿な提案にも真剣に考えてくれてるのに」
おいで、と手招きされる。抗う理由は、たぶん、もうない。
孤独だと告白するその腕は、きっと優しくガイを抱きとめてくれるだろう。


こういう駆け引きだけは大人だな、と少し感心した。




BGM:オンリーロンリーグローリー/BUNP OF CHICKEN「ユグドラシル」

ピオガイです。JPG以来のピオガイです。
本当はエロに突入する予定だったのですが、なんかほのぼのになってしまったのでそのまま終わらせました。もしかしたら、続きを書くかもしれないですが、たぶん書かないと思います(どっち)
タイトルを考えてるときに、ふとバンプの曲を思い出して聞いてみたら、そのままの内容だったので付けてしまいました。「本当の孤独に気づいたんだろう」「置いてかれた迷子」「目隠ししたのも耳ふさいだのもすべてその両手」とか、ピオニーとガイなかんじだったので。はい。特に、「さあ何を憎めばいい」っていうのを聞くといつもガイのことを思い出します。憎しみは時に生きる糧になったりしますからね。

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