むのはれない未来




こんなふうに過ごすことができる時間があとどれだけあるのだろう。

なんでもないことが幸せ。
ありふれた言葉だけれど。
ありふれているからこそ、皆同じようにつらく感じるのだろう。

ゆっくりと髪を梳く。
小さいころからずっと長かった髪は、今はとても短くなっていて、梳いてもすぐにするすると逃げてしまう。
まるで、この手には捕まえられないルークの、心みたいに。
吐息静かに眠るルークを抱きしめる。此処にいる。此処に息づいている。
なのになんだか遠いような気がしてならないのはきっと、自分の心が急いているから。それに、たぶん現実となるだろうという予感。

もぞり、と腕の中でルークが動く。
「…ん、ぅ……」
寝言かと思ったが、どうやら自分が抱きしめた刺激で起こしてしまったようだ。
「ん……ガイ…?」
「ごめん、起こして…」
「いや、いいよ…」
ふわあ、と子犬のあくびのような音を立てて、目をこする。まだ意識が清明ではないようで、鼻から抜ける吐息を漏らしている。
小さい頃は―まあ当たり前だが―幼くて、言葉も何もかもわからないルークは生まれたての子犬のようだったのに。
体ばかり大きくて。それでも自分を必死に追って。

外を知って。悲しみを知って。それに、きっと、幸せも。

それなのに、まだ生まれて7歳なのに、消えたがる。
自分にはそう感じる。

別にむやみやたらに消えたがっているわけではない。
そう、だけれども。

結果的には同じことじゃないか。
今は、腕の中にいる。
でも、いつかは消える。

ほら、やっぱり結果は一緒。

「…ガイ、なんか怖い顔」
考え事をしているうちに、ルークはガイの腕の中から這い出していた。
言い方が少し稚拙なような感じがして、言葉を覚えたての頃に重なった。
「ごめん…」
「別に、誤るようなことじゃないだろ?…おっかしいの、ガイ」
こつん、と額をあわせて、ふふ、と笑う。

あと何回、この笑顔をみることができるのか。
あと何回、ガイと呼んでくれるのか。
あと何回、一緒のベッドで寝ることができるのか。

「ルーク…」

あと何回、この名を呼べるのか。

「なんだよ、ガイ」

「ルーク…」

「なんだよ、眠れないのか?」

「ルー…」

ついばむように与えられるキス。
まるで小さな木の実を食べる鳥のように。何回も、何回も、近づいては離れる。

ふいに、キスの雨が止まる。
「ガイ…。そういう顔されると、困るんだけど、俺」
肩口に顔を埋めて、ルークが耳元でささやく。
「あ、ごめん…もう大丈夫だから」
うまく笑えているだろうか、でもまあ、顔は見られてないからいいか。
「大丈夫って??いや、そうじゃなくてうん…」
「え?」
沈んだ表情をいわれたと思ったのに、そうではないようでルークが言い辛そうに言葉を濁す。
「なんだよ、どんな顔してた?俺」
「だから、さぁ…困るんだよ。俺、子どもだけど、子どもじゃないから、さ」
皮膚の上をすべるように歯が首筋を食む。
ひゅっと息を吸い込んだ後、吐き出すことができなかった。
あまりにもそれは前触れのない刺激で、思わず甘い声が漏れそうだったから。

「ガイ…眠れないなら、しよっか」

答えなかった。
それが答えだった。

近い未来消えてしまうであろうぬくもりは、
何よりも暖かく、
何よりも切なかった。


あと何回、こんな思いをしなくてはならないだろう。


次第に高揚する身体。
ガイは意識的に溺れることにした。

何も考えないために。
今だけを感じるために。
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