we want to fuse into one. 屑が屑でなくなったらそれはそれで良いことなのだろうが、なんだか釈然としない。 それはオリジナルとして自分は驕っているとかそういうこと…なのではないはずだが、まあとにかく、面白くないとしか言い様がなかった。 面白くないを通り越して、今では実害さえ出てきているような気がしてならない。 昔、ルークがアッシュのレプリカだった頃、ルークはアッシュからの声が聞こえるたびに頭痛がしたのだという。 それはそれで…悪かったような気がしないでもないが(その当時はそんなことさえ屑に対して思いもしなかった)、だからといって、今の是が赦されるわけではないだろう。 エルドラントで死んだはずだった。 そして、ルークも、自分は死ぬんだなぁ、と思ったという。 実際にそうだったのかもしれない。けれども、またこうして生きているということは紛れもない事実だ。 タタル渓谷発見されたルークに遅れて、アッシュも、今度は…言うのも躊躇われる物騒な場所にいた。 (何故こんな…キノコロードにだなんて…) もしかしたら無意識に、誰にも見つからずにありたいと思っていたのかもしれない。 こんな場所、チーグル以外立ち入ることなど滅多にないだろう。 そう、誰にも見つからない…はずだった。 『アッシュ…アッシュなんだな?』 空耳ではない。紛れもないレプリカ…いや、ルークの声だった。 直接頭に語りかけてくる声は、意外にもクリアで鮮明で…同時に性質も悪い。 そもそもレプリカなのにどうして、しかもこんなにノイズ少なくコンタクトを取れるのか不思議だった。昔はコンタクトをつなげることすら出来なかったのに。 後から解ったことだが、ルークはすでに、レプリカではなくなった…らしい。再構築された際に、アッシュとルークは交じり合って、それからまた別々に生み出されたようだ。何の皮肉か、オリジナルの能力が高いから、二人分を賄えるなどという説明は聞きたくなかった。また大事なものをひとつ、ルークに奪われたような気がしたからだ。 アッシュが生きているということを認識してから… 『アッシュも生きてたんだな!』 『どこにいるんだよ』 『皆に知らせたら絶対喜ぶって』 『どうして何も返してくれないんだよ』 『おーい、アッシュー』 立て続けに話しかけてくる。 最初の1〜2時間はだんまりで通していたのだが、キノコロードを彷徨っているときにうっかり躓いて転びかけた際の小さな声を聞き逃さなかったルークが、『大丈夫か!?アッシュ!?怪我してないか!?』との、人を馬鹿にしているとしか思えない声掛けに我慢ならず、 「う……五月蝿い…!!!」 …話しかけてしまった。 『あ、やっと喋ってくれた、へへ』 そんなアッシュに、ルークは暖かそうな笑い声で返した。 それからというもの… アッシュが居場所を聞き出すのは無理だと判断したルークは、ことあるたびに声をかけてくるようになった。それは作戦なのか、それとも単に馬鹿なのかわからないが、とにかくアッシュにとっては迷惑極まりない。 『今日は挨拶もかねて……に来てるんだ』だの、 『……って、何度来ても、やっぱり綺麗だと思うんだ。なんていうか、キラキラしてるよな!』だの、 『アッシュもちゃんと、みんなに会わないと』だの… ほとんど聞き流していたので細かいところは忘れてしまったが、兎に角、いちいち反応していてはきりがないから黙っていた。 答えたら答えたで、調子に乗りそうな気がしたのもあるが…。 この予想は、たぶん当たっている。 ***** 夜になった。 とりあえずこのあたり一帯を歩いて見たが、キノコしかなかった。チーグル一匹出会わない。 ルークは眠ってしまったのだろう。 やっと声が静かになって、自分のことについて少しずつ、考える始めた。 死んだはずの自分が、何故生きているのか。いや、生き返ったのか。 生に意味など求めることのほうが間違っているとはわかっている。しかし、それでも、と思ってしまうのは、今まで自分が「死んで」でも阻止しなければならないことを達成するために「生きて」きたからだと思った。 それを失った今、一体何を目的に生きていかなければならないのだろうか…。 国に戻るという選択肢は、自分にはなかった。 今や、あそこに自分の居場所はないだろう。 ましてや、レプリカがレプリカでなくなったのなら尚更のことだ。 「生きていても、死んでいても、一緒じゃないか…」 『アッシュは、死にたがりだな』 ぐわん、と、大地が揺れるような感覚に襲われ、そうではなくて、自分の平衡感覚が狂わされているのだと知る。 ルークが言っていた頭痛と似たようなものなのだろうか。今までの声はそんなことなかったのに、突然どうしてこんな…。 というか、まだ起きていたのか。もうてっきり眠っていたと思って漏らした独り言だったのに。 病にかかったように、思うように姿勢を保持できなくてゆっくりと身体を横たえていく。崩れ落ちると形容したほうが正しいような動作だった。 落ち葉の褥に埋もれる。このまま腐敗して大地とひとつになってしまえばいいと、そう、思った。 『いつでも、そうだった。俺が死ぬからお前は生きろ、って、そればかり言ってて。まるで、自分は死んでこそ価値があるみたいな、そんな言い方ばっかりで…俺もまあ、そういう時期も、あったけどさ…』 そうだ、自分ばかりが死にたがっていたわけではない。 ルークだって、レプリカの自分が死ぬ方がいいと散々アッシュに食って掛ってきていた。 『アッシュは、誰にも会いたくないんだな』 「会う必要なんか…ないだろう…」 眼をつぶっていても、大地が揺れているような気がする。 アッシュが何かを喋るたびにそれが強くなるのは、ルークの感情と同調しているからか。 声は、静かで、この森の夜のように静かで。 でも、その静寂は決して落ち着いているという意味ではなかった。 それは、怒りなのか、絶望なのか、悲嘆なのか。 「俺の居場所はもう、本当にどこにも、ない」 『アッシュは…考えすぎなんだよ』 「お前は考えなさ過ぎだ」 『そうだね…でも俺は…』 ―――アッシュが生きてるって信じることが出来るだけで、凄く、嬉しい。 「ば…馬鹿か、お前は」 『足りない?』 「は?」 『俺が、アッシュと一緒に居たいっていうのだけじゃ、足りないかな。生きる、意味。』 胸が、締め付けられるような、痛み。 眩暈のような揺れはもう収まっていた。だから、これは声のせいじゃないとわかっている。 それでも、否定したかった。ルークに必要とされていることがこんなにも「嬉しい」と思っている自分を。 「た…足りるわけがないだろ、屑がッ…」 口任せに言葉を滑らせる。ルークの一言一言に動揺していることをもう隠しようがなかった。 『じゃあ…アッシュが欲しい、全部。アッシュが自分のこといらないっていうのなら、俺に頂戴』 つきんつきんと、胸を苛む。 声は、甘美な棘をはらんでいた。 ***** 自分は頭がおかしくなったのではないだろうか。 先ほどから、ルークの声がするたびに全身が震えてしまう。 ここは外で、夜で、絶対に寒いはずなのに、身体は熱に冒されていた。 はぁ、と吐く息が白いのは、気温が低いからではないということは明らかだ。 「何を、した……」 『………』 しかし先ほどまで五月蝿いほどに話しかけてきたルークからの返答は、今途絶えていた。 でも、声は届いているのだろう。 無様に、地に横たわり、身体は身悶え、息を切らしているアッシュの声が。 知っていて、黙っているのだ。そのことに腹が立った。 静けさの所為で、やたら自分の吐息や声が耳付く。 とにかく、身体がとても、熱くて、熱くて、尋常じゃなく、熱かった。 身体に纏わりつく服が、邪魔で仕方がない。 外気に少しでも肌を晒そうと思い、服に手をかけた。鼓動が、異常なまでに早鐘を鳴らしている。 『生きてる、証拠。それと、身体が熱いのは、俺がアッシュを欲しいっていう、証拠』 「何なんだ、これは。こんなのは…おかしい。感情が、流れ込むなんて…」 『俺もわからない…でも、俺にも伝わってきてる、よ』 アッシュには、はらりはらりと落ちてきた木の葉が降り積もっていた。 しかし、次に落ちてきたのは、落葉ではなくて、赤い糸の束。 「な、んで…」 わかるはずが、なかった。 しかもこんなに早くに見つけ出すことが出来るなんて不可能だ。 たった半日で、何故キノコロードにいるなどわかったのか…。 いや、それよりも、どうしてマルクトにいるんだ。キムラスカの、あの屋敷にいるのではなかったのか。 「アッシュは…俺が何度も話しかけてるのに上の空で…。やっぱ、気付いてなかったんだな」 たしかに、今日ルークが話しかけていたことなどほとんど覚えていなかったし、それに…今ルークが自分に話しかけていることも、ほとんど上の空だった。 「熱いんだ」 そう。ルークの顔を見て、熱は収まるどころかさらに騒ぎ出している。 この熱の元凶が、目の前の相手だということは頭ではわかっていた。そして、それをもっと高め、やがて鎮めてくれるのも、同じ相手なのだということも。 「うん、知ってる」 「なんとかしろ」 「うん、でも…いいの?」 「いいから…いや、お前じゃないと、意味ないだろ」 「うん…そう、だね。アッシュ…」 身体をまとう、木の葉ごと抱き締められる。くしゃり、と潰れる音がした。 包み込まれたルークの腕の中も、己のものと同じくらい熱い。 しかし…すぐに気にならなくなった。 ***** 同じ顔 同じ髪 同じ躯 どのパーツをとっても、同じとしか言い様がない。 初めて会ったときの憎悪とは違って、それは寧ろ安心するものだった。 自分がルークの体に、そして自分にもルークが息づいているという証拠。 だから、奪われたという気持ちは失せていた。 二人は、一度融合してそしてこの身はアッシュの記憶を、対の身にはルークの記憶を持ってこの世界に再度零れ落ちただけの話。 互いの体がひとつになりたがっているから、こうして抱き合えば離れがたくなる。 そうする必要も、今は、なかった。 「ふっ…ぁ、……っ…」 口腔の粘膜をあわせると、果てのない深みに堕ちていくかのように互いを貪った。 ずっとずっと欲しかったものが手に入ったような安堵感が生まれる。 このような行為をとても「自然」に行っている自分が凄く「不自然」で、不思議な感覚だった。 「アッシュ…」 「な、んだ…」 離したがらない自分達の体を律するようにして唇を遠ざける。ほんの、僅かに。 目を薄く開ければ、嫌でもルークの顔が目に飛び込んでくる。ルークもこちらの顔をぼんやりと見つめてくる。頬は仄かに色づき、目が合うと困ったような顔をして微笑んだ。 「俺…おかしくなりそ…」 「馬鹿を言うな…」 「だって、アッシュだって…」 「わかってる…だからもう、言うな…」 二人分の感覚が、互いの体に流れ込む。相手を欲しがれば欲しがるほど、それは自分に返ってきて、快感に飲み込まれそうになる。 言葉を交わすのも大事なことだけれども、今必要なことは別にあった。 (そうだろ?ルーク…) (そう、だね…アッシュ…) 唇を再び合わせる。 でももっと、もっと深く繋がりたい…。 熱に浮かされた頭でぼんやりと思えば、それもルークに伝わったのか両手で肌を弄られる。 おずおずと、アッシュもルークの服に手をかける。 背中は外気と同じくひんやりとしていた。その下に隠されている、ルークの肌に直接触れる。指先が少し冷えていたのか、触れた瞬間ルークの体がびくりと震えた。お返しとばかりに、ルークもアッシュに直接触れてくる。確認するようにアッシュの背中をなでおろす。そのまま指は臀部へと滑り落ちていく。触れられていない最奥が、ひくりと震えた。 ぞくん。背中が凍ったように痺れる。それは腰に響き、砕けて熱へと変わった。 どんどん高まる体をもてあましてもぞりと動くと、膝がルークの前を掠めた。 「っ…アッシュ、ちょっ…」 自分だってアッシュのきわどいところを触っているくせに、ルークは戸惑いの言葉を漏らす。アッシュは制止する言葉を無視して、高ぶる起立へ布越しに触れた。 すでに固くなっているそれは、トクントクンと脈打っているのがわかった。 それはルークだけではない。自分も同じ状態になっているのは自ら触れずともわかっていた。 今度はルークが身じろぐ番。 しかし寧ろ、アッシュにはもっと触って欲しいといった仕草に見えた。 だから、思ったとおりにすることにした。 不思議なほどに、積極的に体が動く。 きっと、先ほどから流れてくるルークの感覚が、暖かで、そして切なくなるくらい愛しさで満ちているからだろう。 「アッシュ…」 「なんだ」 直にルーク自身に触れる。 吐息と一緒に漏れるような声で、つらそうにルークが言葉を紡ぐ。 「好き」 「…ああ…」 「アッシュ…欲し…」 先ほどから腰から太腿にかけて撫で回していた掌が、そっと、窪みに入り込む。 わざと触れられていなかったそこは、最初からルークと繋がるためにあったかのように触れられた瞬間熱を持った。 「ル…ク…」 「アッシュも欲しいって言ってる…」 まだ乾いたままのそこを、指先でやさしく撫ぜる。 息が上がり、右手で触れていたルークを強く握りこんだ。 先端に指を這わせると、先走りで暖かに濡れている。自分の手がぬるぬるになっていく感触にひどく興奮する。 手の中でルークの形を確かめるように擦りあげると、呼吸を乱したルークが衝動的に口付けてくる。 (早く 早く 繋がりたい) これ以上は無理と思えるほどに鼓動の速度がペースをあげていく。 ルークの手もアッシュの前へと滑り込み、触れたと思いきや、確認するように指を這わせていく。 じれったい感覚にもぞりと体を動かし、手の中の起立をぎゅっぎゅっと育てていく。ルークもその動きを真似てしごき始めた。 自分で自分を慰めているような、でも本当は互いに貪り合っているという倒錯した状況に、欲望はすぐにはじける。 「…ッ……ふ、あ、ぁ…」 「……ぅ、くぅん…ふ…」 口をつなげたままで息をするのが苦しくて、唇を僅かに離すと、飽和して含みきれなかった唾液が、喉を伝ってたらりと落ちる。 その通り道がひんやりと冷たくて、一瞬だけ、ここは外なんだということを思い出した。 ぬるぬるになった手で、再度ルークが最奥に触れてくる。 今度は撫ぜるだけではない。ぬめりを使って、ゆっくりと侵入してくる。 一度だけ、ぎゅっと窄んで侵入を拒んだ壁は、次の呼吸でやんわりと指を迎え入れた。 ルークの、一部を、食んでいる。 そんな感覚だった。 ゆっくりと、そこを慣らしていくルークにじれったい思いがして、達した後握りこんだままだったものを再度つかみなおす。すでに、そこは熱を持ち直していた。 「あんまり…刺激すると…」 「ん…?」 「すぐに欲しくなる…ていうか、もうすでに欲しいんだけど…」 ぐっと、ルークの指が中を開くように動く。ここに、ここに入りたいんだ、とアッシュに知らしめるために。 「入れ、よ…」 先ほどから、もう欲しくてたまらなかった。この楔に貫かれたら、どんな風になってしまうのだろうと思うたびに、背中が粟立つ。 いつから自分は、こんなふうに求めることが出来るようになっていたのだろう。 昔は、欲しくても、欲しいなどとは決していえなかった。 ないものねだりは、無様だ。 そうか、欲しいといって無償に与えられることを信じきっているのか、自分は。 この片割れが、ずっと一緒にあればいいと。それが、本当の姿なんだと。 他人に身体を暴かれるということが、こんなに心地良いことだとは思ってもみなかった。 「ア、ア、アァ……!!!」 いや、他人ではない。 ルークだから、こんなに、悦い。 「アッ…シュ……っ…」 ルークの声がかすれて、鼓膜を震わす。 呼び声に答えて欲しいのか、次第に耳に近づいてくる。耳朶を口に含まれて、「アッシュ…」と囁き続ける。 答えたくても舌が上手く動かない。口を開けば、吐息と喘ぎ声だけが漏れるだけだった。意外にも恥ずかしいとは思わなかった。それだけでもルークへの答えになっているかもしれないと思えるからだった。 律動は、繰り返されるたびに深くなっていくように思えた。 もっともっと奥に侵入したいというルークに、アッシュは抗わなかった。 ずんずん、と貫かれる。 頭の底で、快感の粒がひとつずつパリンパリンと砕けていく。 「ル…ク……ッ…ふ、ぁ…!」 「アッ…シュ……ッ…もっ…!」 瞬間、何も見えなくなって、何も聞こえなくなって… 次に目覚めたとき―――― 二人はひとつになった 『るくあしゅR18ぷろじぇくと様』に寄稿 お題「回線」 |